magurit’s blog

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「社説」より

 「教育基本法改正」・・・さらなる国民論議の契機に
  教育基本法が一新された。1947年(昭和22年)の制定から60年,初めての改正だ。
 「教育の憲法」の生まれ変わりは新しい日本の教育の幕開けを意味する。この歴史
 的転換点を,国民全体で教育のあり方を考えるきっかけとしたい。
  見直しの必要性を説く声は制定の直後からあった。そのたびに左派勢力の「教育
 勅語軍国主義の復活だ」といった中傷にさらされ,議論すらタブー視される不幸
 な時代が長く続いた。
  流れを変えた要因の一つは,近年の教育の荒廃だった。いじめや校内暴力で学校
 が荒れ,子どもたちが学ぶ意欲を失いかけている。地域や家庭の教育力も低下して
 いる。
  現行基本法が個人・個性重視に偏りすぎているため,「公共の精神」や「規律」
 「道徳心」が軽視されて自己中心的な考え方が広まったのではないか。新たに家庭
 教育や幼児期教育,生涯教育などについて時代に合った理念を条文に盛り込む必要
 があるのではないか。そうした指摘が説得力を持つようになってきた。
  改正論議に道筋をつけたのは2000年末,首相の私的諮問機関「教育改革国民会議
 が出した報告書だった。基本法見直しが初めて,正式に提言された。
  これを受け,中央教育審議会が「新しい時代にふさわしい」基本法の在り方など
 を答申。与党内でも改正に向けた検討が本格化し,ようやく今年4月,政府の全面
 的な改正案が国会に提出された。
 ◆6年にわたる改正論議
  この6年,基本法改正については様々な角度から検討され,十分な論議が続けら
 れてきたと言っていいだろう。
  その中には「愛国心」を盛り込むことに,左派勢力は「愛国心の強制につながり,
 戦争をする国を支える日本人をつくる」などと反対してきた。
  平和国家を築き上げた今の日本で,自分たちが住む国を愛し,大切に思う気持ち
 が,どうして,他国と戦争するというゆがんだ発想になるのだろう。
  基本法の改正を「改悪」と罵り,阻止するための道具に使ったにすぎない。
  この問題は,民主党が独自の日本国教育基本法案の前文に「日本を愛する心を涵
 養し」と明記したことで決着した感がある。政府法案は「教育の目標」の条文中に
 「伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する・・・態度
 を養う」と入れた。むしろ民主党案の方が直接的で素直な表現だった。
  ともあれ,改正基本法の成立を歓迎したい。その精神にのっとって,日本の歴史
 や伝統,文化を尊重し,国を愛する心を育てるような教育が行われることが期待さ
 れる。さらに家庭,地域での教育も充実されて,次代を担う子どもや若者たちが,
 日本人として誇りを持って育っていってほしい。
 ◆関連する課題は多い
  そのためには文部科学省など政府が取り組むべき課題は山積している。
  まずは学習指導要領や学校教育法など関係法の見直しである。
  指導要領は,改正基本法愛国心や伝統・文化の尊重,公共の精神などが盛られ
 たことで,社会科や道徳の指導内容が変わってくる可能性がある。愛国心などの諸
 価値は,どれも国民として大切なものだ。子どもたちの白紙の心に,正しくしっか
 りと教えてもらいたい。
  「学力低下」の懸念から,授業時間数や教える内容を増やす必要性も叫ばれてい
 る。高校の「必修逃れ」問題では,指導要領の必修科目の設定が今のままで良いの
 か,といった議論も起きている。
  小学校の英語「必修化」論議など暫時”保留”になっていた指導要領絡みの施策
 の検討が一斉に動き出すだろう。
  学校制度の基準を定めた学校教育法の改正,教育委員会について定めた地方教育
 行政組織運営法,教員の免許法などの見直しも必要だ。安倍首相直属の「教育再生
 会議」でも検討している。
  もう一つの課題は,国と地方が役割分担を明確にし,計画的に教育施策を進めて
 いくための「教育振興基本計画」の策定である。
 ◆国と地方の役割示せ
  「全国学力テストを実施し,指導要領改善を図る」「いじめ,校内暴力の『5年
 間で半減』を目指す」「司法教育を充実させ,子どもを自由で公正な社会の責任あ
 る形成者に育てる」----計画に盛り込む政策目標案を,中教審もすでに,いくつか
 具体的に例示している。
  国が大枠の方針を示すことは公教育の底上げの意味でも必要だ。同時に,学校や
 地域の創意工夫の芽が摘まれることのないよう,現場の裁量の範囲を広げる施策も
 充実させてほしい。
  焦る必要はないだろう。教育は「国家百年の計」である。国民の教育への関心も
 かつてないほどに高い。教育再生会議などの提言も聞きながら,じっくりと新しい
 日本の教育の将来像を練り上げてもらいたい。
  (2006.12.16・土曜 読売新聞朝刊「社説」引用)