読売に連載された,ドナルド・キーン氏の「クロニクル」。
知っていたが一度も読まなかった。
が,24日の「番外編」の見出しがとても気になった。
「思い出そうとしない方がいいのだ」 連載を終えて
(2006.12.24・日曜 読売朝刊より 引用)
20世紀の記憶を辿って来た筆者が,最後に「思い出そうとしない方がいい」とは,
何とも引きつけられる見出しではないか・・・*1。
(中略)
それでも連載が終わってみると,後悔の念に駆られた。私は,読者が特に関心があったかもしれない
幾つかの体験に触れなかった。それ以上に,私の人生で重要な役割を演じて私の自叙伝に登場して然る
べき多くの人々に言及しなかったことが悔やまれてならなかった。彼らは,連載に登場した人々ほど自
分が重要に思われていないのだろうかと疑ったり,すでに亡くなっていたとしたら,その家族が同じよ
うな思いを抱くかもしれない。私に答えられるのは次のことだけで,いざ「クロニクル」を書き始めて
みたら,自分が書こうとしているのは,次から次へと「鎖」のように繋がっている一連の体験だという
ことに気づいたのだった。(後略)(2006.12.24・日曜 読売朝刊より 引用)
悔恨の念とその潔い告白。さらに,連鎖にたとえられた一連の人生体験。
読んでおいたほうが良かったかな?といささか,悔やまれた。
多分,本になるだろう。その時,改めて読んでみたいと思う。
ただ,この日の文章がどういう形になって載るのかはわからないので,保存しておきたい。
さらに,最後に続く文章は,ブログや日記を書く事,記録を残す事を「改めて考える」きっかけに
なった。念頭に置いておきたいと思った*2。
この連載の読者の中には,私が昔のことをよく覚えていると誉めてくれる人々もいる。逆に私は,
自分がよくも忘れてしまったものだと思っている。最近,古い写真を取り出す機会があった。どの
写真にも私の隣に数人が立っていて,私と一緒にカメラに向かって笑いかけている。私はその場所
も,その人々が誰かも覚えていない。何か手掛かりはないかとその写真が撮影された国を明らかに
してくれるもの----例えば,後ろの壁に外国語で書かれている文字を探す。結局何も思い出せなく
て,そこには説明書きのない写真だけが残る。
自分が日記をつけていなかったことを,残念に思うことがよくある。日記があれば,過去の多く
のことを思い出す手掛かりとなったに違いない。しかし,いっそのこと忘れてしまった方がいいの
かもしれない。もしすべてを覚えていたら,子供のころに私を怖がらせたものや,学校で嫌いだっ
た先生のこと,私を裏切ったと思った友達や,こっちが愛しているのに向こうが愛していなかった
人々のことを思い出すだろう。そう,たぶん思い出そうとしない方がいいのだ。この「クロニクル」
が抱えている数々の欠陥にもかかわらず,一人の人間がいかに幸せな人生を過ごしてきたかという
ことさえわかっていただければ,私は本望である。(2006.12.24・日曜 読売朝刊より 引用)
P.K.ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』が原作として
製作された映画『ブレードランナー』の中で,レプリカント達は,寿命が
数年しかない為に,作られた記憶にすがるかのように写真や見てきた事を
大事にしていた。
”記憶”・”記録”・”思い出”。それらは,人々の生きてきた証。
嫌な思い出も,時の経過と共に,”あれもいい思い出”なる言葉に変容していく。
しかし,逆に考えると,忘却の彼方にある幾ばくかの思い出には,「たわわと茂った枝葉が
青々としていた頃」があるという事なのだろう。
12/23に”3年目宣言”をした私にとって,この1年の日記は,どのような枝葉が茂り,
そして,未来には,何枚の葉っぱが残っているのだろう・・・。
←「木の葉(銀杏)に銀メッキをしたもの*3」
アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))
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*1:一面全部を別頁に引用するだけの時間もないので抜粋する。しかし,それによって,「誤解が生じないといいなぁ」と切に願う。私の抜粋引用を読んで気になる方は,全文を”検索サイト”ででも探して読んでいただきたいと思います
*2:私は,職場での同僚の発言・動作・環境等をかなり克明?に記憶しているらしく,再現ビデオの様に話をすることがある。仲間から”よく覚えているな”と感心,嫌な顔をされたり,逆に,”あれはどこにあったっけ?”と尋ねられる事も多い。その為,嫌な事も忘れない,忘れようにも消えない。これも実に辛い事である。”心の風邪”の原因の一因かもとも思ったりする。ただ,寄る年波には勝てないのか,少しずつ忘れる事や勘違いも増えてきて嬉しいが,それが近日の事だと,”痴呆?”と不安が募ることがある
*3:高校時代,テレビ「みんなの科学」で放送していたレシピを持って化学の教師の処に行くと,放課後,実験させてくれた。アンモニアの匂いは凄かったが,黒い液体の入ったビーカーが見る間に銀色に鏡になる様子は驚異だった