magurit’s blog

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絲山秋子『袋小路の男』

 

袋小路の男

袋小路の男

 金・土と雨の湿気で身体の重たい中,雨に打たれながら*1仕事をしていた(涙)。
 『イッツ・オンリー・トーク』の余韻が消えぬうちにと,
 『袋小路の男』がアマゾンから届いたのが土曜日。
 選んだ理由は特にない。
 雑誌を買う書店にあったのがこの本で,帯には

指も触れないまま「あなた」を思い続けた12年間。
 恋人でも友人でもない関係を描く,話題沸騰の小説

 「恋人でも友人でもない関係」という響きが先の2冊からの
 余韻なのかもしれない。
 「帯後ろ」には「川端康成文学賞受賞」時の選評が。

 〈袋小路の男〉は純愛物語です。
 多くの作家が書こうとして,なかなか書けなかったテーマを,
 絲山秋子は達成しました。    小川国夫氏
  大都会の真ん中で育った子供たち特有の,
 過度なまでの節度,孤立したとまどいと寡黙の
 出口のない切なさが,読者である私にも迫ってきた。 津島佑子

 なるほど,『ニート』や『イッツ・オンリー・トーク』に
 登場していそうな二人の男女。
 お互いが嫌われる事を恐れ,相手の考える事を深く読み,
 言葉にせずに表した行動が,やっぱり裏目に出る。
 「こうしておけばよかったかな,でも・・・」と
 少し後悔が頭に浮かぶが,適当に納得させながら時は過ぎていく。
 「人は一人では生きていけない」なんて,嘯くこともない。
 お互いが自由でありたい,が,しかし,心から想い続けたい。
 なんの計算もなく・・・。
 個の自由度は拡がったかのような錯覚を与える現代の中で,
 きっと昔から変わらずにある,人と人の繋がりを古い袋小路の家に
 そっと置き換えてあるような気がした。
  一転して,「アーリオ,オーリオ」は,中年を迎えた独身男性と
 姪っ子のメールでない,手紙のやりとりを伏線に,一人一人の人間の
 時間の加速度の変化を感じさせる面白い作品。
 この人の本に収録されている話の雰囲気の違いには,いつも驚かされる。
 感情移入しても,短い時間であっという間に読み切れてしまう世界に
 もっとビックリさせられてしまう。

*1:当たり前ですが