magurit’s blog

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『イッツ・オンリー・トーク』

 

イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)

イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)

 以前,はてなアンテナに登録してある,でこぽんさんの日記で,
 絲山秋子さんの『ニート』を勧められた。
 果たして,面白かった。
 ニートと呼ばれる人の話というよりも,
 その人を,護り,癒される女性の正編と続編が
 短編の中にあったり,マイノリティと呼ばれる人々の生き様と
 優しさがヒシヒシと感じられた。
 実は,その後,2回,読み直している。
 正確には,「もう一回読みたいな,あの話」という感じで,
 短編を幾つかずつ読んだのだが。
 
ニート

ニート

 さて,書店で手に取った時,帯に「やわらかい生活」という映画化の
 広告があったので,何故だか,ちょっと手を引っ込めた。
 ぐるりと本を物色したあと,もう一度,新刊のところで手に取って,
 解説を読み始めた。
 絲山秋子さんのファンであり,この本が単行本として出たとき,
 先見の明で,平積みした書店員の方が書いていた。
 読んで少しでも,作品の背景が知りたかったが,
 ネタは読んだ人にしかわからないようになっていた(苦笑)。
 だが,主人公にかかわる登場人物の設定の中に”ひきこもりのダメ男”
 がいる。「あぁ,ひょっとしたら『ニート』はここから生まれたのかも?」
 等と勝手に考えてレジに向かった。
 表題作と「第7障害」という2編の中編集。
 解説にあった言葉を借りるなら,A面とB面という様に設定が違う。
 表題作が,弱さと脆さと儚げさを生きていくなかで認めていく感じなら,
 後者は,壁を乗り越える,いや,知らない間に変化している自分を知る
 話とでもいえるかもしれない。
 この本も,また,時をおかずして読みたくなるだろう。
 川上弘美の小説も好きだが,あの読後感は,麗しい日本語が計算されて
 並べられた旨さを堪能する幸福感。間と間を読ませる事で想像力を掻き立てる。
 対して,糸山さんの作品は,無駄を削ぎ落としたスッキリした文章なのに(だから?)
 紡ぎ出される物語は読んだ人と時間に優しさをたゆたえる様な空気を与えてくれる。
 「登場人物が今後どうなるのだろう?」という世界の拡がりよりも,
 小説の世界に住みついてしまいたくなる。
 出版されているのは7冊。残り5冊の誘惑に負けてしまいそうだ。