- 作者: 絲山秋子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/02/23
- メディア: 単行本
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まず,「沖で待つ」から読んだ。
同期入社の仲間が,「もしもの事があったら,※※の◎●●を壊してくれ。
キミも持ってるだろ?合い鍵を交換しておこう」という約束を,果たさなくては
ならなくなる話だ。「沖で待つ」と言う言葉から,海辺の街のノンビリした話かと
予想していたので,絲山さんの会社時代の世界と経験がうまくインスパイアされて
るなぁと思いながら,『イッツ・オンリー・トーク』の「第7障害」と同じ北関東
と東京が舞台として使われていて,いろいろな作品が続いているような錯覚も覚え
る。いや,同じ空気の下に住む人間の話だから,その何百何万の一つを,ピンセッ
トでつまみ出して,その世界にスッと融けていけるのが心地いい。
ゴム手袋を用意し,特殊工具を使う処は,少しハラハラさせてくれるが,思いの外
あっさりと,そして,この世を後にした同僚が人目に触れさせたくなかった物が,
オチとして,人の”こだわり”とはなんとも不思議な思いにかられる。
「勤労感謝の日」は,今日読んだ。
35才の総合職を辞して雇用保険を受給しつつ,職探しをしている主人公。
表通りの命の恩人が用意してくれた”お見合い”に義理を感じながらも,
あまりに無神経な相手に,中座して元後輩を呼び出して語り合う。
「そうそう」,「まったくだよね」と相づちを打ちながら,読む。
なるがままの自分をそっと抱きしめてるようで,厳しい話だが,共感して
くれているようで優しく思う。
「鳥飼さん,仕事で憧れってありました?」
「憧れ?」
「社内じゃなくても,この人みたいに働きたいとか,こういうふうになりたいとか」
「ない。一度もなかったね。」
「私もなかったです。これって私達の不幸ですよね。総合職という場は用意されて
いながら誰もビジョンなんて持っていなかった」
「勤労感謝の日」33,34ペより引用
まだ,しばらくは,絲山秋子の世界に浸り続けそうだ。