magurit’s blog

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トランスな世界

No.40

 ●投稿者:マグリット(♂)
 ●投稿日:05月28日(火)20時35分32秒

◆友の死

 10年以上,共に暮らしてきた友が,土曜日(5/25)に逝ってしまった。
といっても,ホモサピエンスではない。ネコ科である。

 私の家は,戦時中より,イヌ・ネコをたくさん飼ってきたらしい。
戦時中は,軍用犬を多数預かっていたらしい。
 その辺りの事はこの世にまだ生をうけていなかったので,聞き及ぶ
ところということ。

 だから,物心ついたころには,ネコだのイヌだのが,うじゃうじゃ
家の中にいて,夏場はノミによく悩まされた。
 
 今の仕事をするころには,そのノミをアルコール漬けにして,透明の
マニュキュアでスライドガラスに固定して,研究者に頒布したものだ。
 しかし,一昨年,発売されたノミ避けの薬が,ネコの体調に影響も
でないという優れものだったので,今では,まったくノミの姿を見る
ことはない。

 ノミという生き物も,なかなか変わった習性があるのだが,その話
はまた別の機会に送りたい。

 祖父母は,イヌが好きだったが私はネコの方が自由奔放で,ワガマ
マな姿が羨ましく好きだ。
 祖父母が順番に逝った後,イヌが老衰した後は,ネコだけの生活だ
った。我が家のネコは,手前味噌ながら,変わった習性の持ち主が多
かった。返事を返すネコ。指鉄砲で撃たれると死んだ真似をするもの。
テレビを延々見つめているもの。イヌのようにお手をするもの。海苔
が好きな猫。甘栗やカステラの好きな猫。ラーメンやメロン,スイカ
が好きな猫などなど。

 その最後の1匹の雄猫は,子供のころあまりかまってやらなかった
から,大人になってから,ヒモで遊んでやると,力の加減がわからな
いのか,よく手の甲を小さな前足で思い切り打たれた。
 猫相がお世辞にもよくなく,ゴジラだの,ブスだの言われていた。
 腰が弱く,台の上に飛び上がれずによく落ちた。その時に,笑うと,
自分が笑われてることが判るのか,すねていたしぐさが,なかなか,
可愛いものだった。

 1年前に,その雄猫の子供が死んだときも,とてつもなく悲しく,
涙が枯れることなくあふれ出た。

 祖父母や叔父叔母が亡くなったとき,一緒に生活していたのに,
涙一つ流れなかった。

 しかし,猫が死ぬたびに,胸のうちがしめつけられるように,切な
く,苦しいものに包まれた。

 二週間前から調子が悪く,医者にも連れていったのだが,何も食べ
なくなり,ミルクをやっと飲んでいたと思ったら,水も飲まなくなっ
てしまった。そんな具合の悪い時でも,家に帰ると玄関までよろよろ
と迎えに出てきていた。

 土曜日,仕事から戻ると,玄関に青いビニールに包まれた小さな箱
が置いてあった。思わず「ごめんな,ありがとう」とつぶやいていた。

 猫にとっては,餌をくれる私の母が一番だったのだろう。

 台所の床に,キャットフードの缶が,整理されかけて,そのまま
置いてあった。

 たぶん,しばらく猫を飼うことはないだろう。

 しかし,人間としての熱い心を教えてくれたのは,彼ら小さな友だ
ったと私は思う。合掌。