メグレの尋問の件が特に面白かった。
いつになく多くの登場人物。それぞれ
の性格や姿が目に浮かぶ。
第18区署の刑事ロニョンが,深夜,ジュノー並木通りの路上で,
何者かに撃たれた。なぜロニョンが,そんな時刻にそんな場所に
いたのか,同僚の刑事は誰も知らない。そして,彼が,職場に面
した建物の五階に住む若い娘のもとに夜な夜な通っていたという。
門番の女の奇怪な証言がある。だがメグレは,ロニョンが隠れた
事件を嗅ぎ当てひそかに単独で調査をすすめていたのではないか
と推理する。ロニョンは五階の娘の部屋にあがりこんで,何かを
見張っていたのだ。事件発生と同時に姿を消した娘・・・・ロニョンが意識を失う直前につぶ
やいたという謎の言葉《幽霊》・・・・
(河出書房新社 第5巻 裏表紙より引用)
登場人物*1は,
メグレ,メグレ夫人,部下(ジャンヴィエ,ラポワント,リュカ)
ロニョン刑事(18区の刑事,あだ名は”無愛想な刑事”),ソランジュ(ロニョン夫人),
マリネット・オージェ(美容師),ソラージュ(門番女),ラウル(ソラージュの夫)
クレアク,シャンキエ(18区の刑事),マクレ(閉じこもり老人),
ノリス・ヨンケル(大金持ちのオランダ人,美術収集家),ミレラ(ノリスの妻),
パレストリー(天才画家),スタンレイ・ホブソン(元ミレラの情婦),
無愛想な刑事と呼ばれる,運の悪いロニョンが深夜,撃たれた。
彼は,メグレシリーズでは有名人なのだが,この作品では,最後まで口を開くことは
できなかった。病院に入院していたのだから。
彼は,いつも単独行動を好んだ。それは,彼の不運さからそうするしかなかったのだ。
彼は,大事件では,いつも手柄を他人に取られたりする。だから,同僚は彼がどんな事
件を見つけたのかわからなかった。出世しない彼に辛く当たる,ロニョン夫人。
メグレは彼に目をかけていた。病気がちなロニョン夫人の元へメグレ夫人を手伝いに
行かせたが,感謝されるどころか・・・。
警視庁で指図するより,現場で聞き込みをしたいメグレは,部下の報告から,
一人の金持ちに興味を持った。彼と彼の妻,そして彼の家に。
その仕事を自分がやれなかったことを,メグレはまたしても残念に思った。
パリからもモンマルトルからも完全に隠遁してしまい,向かいの家を眺め暮ら
している。その年老いたリューマチ病みの人間嫌いに,メグレは合ってみたか
ったのだ。(第3章”マリネットの恋”)
一ヶ月後,ロニョンはビシャ病院を退院した。以前よりも痩せて,眼が輝いて
いた。第十八区の警察署では,あれ以来,彼は一種の英雄だったからだ。それに,
新聞に載ったのは,メグレではなくて,ロニョンの写真だった。
退院したその日に,彼は妻と二人で,アルデンヌの村へ旅立った。医者から,
二ヶ月の療養を申し渡されたのだ。
メグレ婦人が予想したとおり,彼は二ヶ月間,夫人の世話をしてすごした。
(第7章 ミレラの決心)
*1:展開に関係ある登場人物に限定しています