magurit’s blog

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読売夕刊「あの瞬間」より

    
 ”海洋研究開発機構・極限環境生物圏研究センター長 堀越弘毅さん”の話。
  1968年,堀越さんは微生物の研究に行き詰まりを感じ,イタリアのフィレンツェから
 40日間,旅をしながら,パスツールへの想いを巡らしていた。

  ・・・室町時代,日本ではルネサンス文化の存在など想像できなかっただろう。
 きっと(自分が研究する)微生物の世界にも違うカルチャー(文化)があるはずだ。

 と,気持ちを切り替えて日本に戻ってきた。
  微生物の世界での別のカルチャー。それは,アルカリ性の世界だった。
 理化学研究書の庭土を炭酸ソーダ*1の入った試験管に入れた。
 翌日,試験管の中の水溶液は濁っていた。
 「この濁りは,生物の存在を示す証拠に違いない」
 ”濁り”は強いアルカリ性*2の中で,微生物が活動できるという事実は,
 当時,考えにくい事であったが,堀越さんの研究でそれが明らかになっていく。
 「有用な酵素を見つければ,(特許料)を研究費に回せる」と研究を続けていった。
 大きな二つの発見があった。
  その一つは,環状*3オリゴ糖「サイクロデキストリン」の大量生産を可能にした。
 ドーナツの穴になる部分に,モノを閉じこめる事で劇的に用途*4は拡大したが,その時には特許は切れていた。
  もう一つは,繊維を溶かす酵素「アルカリセルラーゼ」。トイレの浄化槽に入れると人糞に含まれる
 繊維質を溶かし,浄化槽を文字通り”浄化”したが,水洗トイレの普及と共にそのニーズは
 急速に萎んでいった。しかし,その酵素の力を弱くすることで,繊維と繊維の間にこびりついた
 汚れを取り除く洗剤*5が開発されたがその時も特許は切れていた。
  2001年,”アルカリ世界”から”深海(1000気圧)”へと研究フィールドがシフトしていった。
 何年も取り沙汰される火星の微生物の発見*6につながっていくのかもしれない。
  堀越さんは

  同じものを見て『感じる人』と『感じない人』はいる。『ハテナ?』と思う感性を養い,
 ノイズの中から本物を探しだすことが大切。ためらわない姿勢も重要で,人のやらないことを
 やらなくては。まだまだ夢を追いかけたい。

 

*1:アルカリ性

*2:pH=10.4//pH:水素イオン濃度指数:水溶液中の水素イオンがどれくらいあるかを示す数。1から14の数字で表され,7が中性。数字が小さくなる程,酸性が強くなり,逆に大きくなるとアルカリ性が強くなる

*3:ドーナツの様に中央に穴が開いた分子構造の

*4:生ワサビの香料,カップめん,医薬品,飲料etc

*5:酵素パワー」と言われたのはこれ

*6:好アルカリ菌「バラルスホリコシー」古細菌「パスロコッカスホリコシー」とホリコシの名が付いた細菌も少なくないという