magurit’s blog

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『水族館狂時代』?読者をバカにしてはいけません!

 少々,挑発的だが,敢えて日本の教育(科学への好奇心)を支える
 啓蒙書の事だから,”喧嘩を吹っかけるのか?”と捉えられても,
 ここに記しておきたいと思う。まして,日本の出版界に大いなる権威
 を誇る出版社の事だから,ハッキリと示しておきたい。
 誤解をして欲しくない。
 私は,今は休刊している○談社の科学雑誌クォーク』が
 某『にゅーとん』よりも百倍も千倍も好きなのだ。だからこそである。
 

水族館狂時代 〈おとなを夢中にさせる水の小宇宙〉 (講談社現代新書)

水族館狂時代 〈おとなを夢中にさせる水の小宇宙〉 (講談社現代新書)

 相変わらずな”大○談社”の編集姿勢は,
 電動ポット氏の”教育再生バウチャー”発言と同様,情けない。
 日本は,四方を海に囲まれた島国である。
 そういう条件を考えても”水族館”の多い国に違いない。
 しかし,数年に一館,話題になる”超水族館”が出現はしているが,
 一時に葡萄の実の如く林立してるわけでもあるまい。
 ”水族館狂”の定義とは何ぞや?
 「チャップリンの黄金狂時代」の”狂”と同じ意味なのだろうか?
 講談社現代新書は,”大○談社”の2大啓蒙書*1の一つではないか。
 岩波新書中公新書と肩を並べても恥ずかしくない歴史を持っているハズである。
 この”ハズ”がくせ者。
 取り敢えず,以下がこの本の目次。

 プロローグ 水族館をめぐる”おとなの話”
 第一章   水族館の誕生
 第二章   ニッポンの水族館
 第三章   水槽のなかのスターたち
 第四章   水族館狂の系譜
 第五章   水族館のできるまで
 第六章   アメリカ水族館紀行
 エピローグ 生命あるものの棲み家
  (各章の小見出しは省略)

 「おとなの話」ってどんな話?
  著者は,水産学畑の出身者ではない。
  そんな事はどうでもいい。視野の狭い三流仕事の専門屋よりは,
 アマチュア*2主義に徹した著者の方が迫力があって面白い。
 この本の著者は,CMプロデューサーから,”動物園・水族館”の企画・設計の
 コンサルタントだそうな。
 ならば,こういう経歴の著者からは
 餌代に困窮し,電気代・維持費等で経営に苦労している園を立て直す案や,
 立て直して来た方法など”水族館と経済学”,”水族館と市民運動”等を
 予想したくなる。
 が,ブルーバックスという科学啓蒙書シリーズを前に置いて,
  ”水族館の歴史””ニッポンの水族館””水槽のなかのスターたち”等は
 不要ではないのか?そういう内容の啓蒙書なら,同じ○談社には,もっと
 立派な本が目白押しではないか?
 

魚の履歴書 (上) (もんじゅ選書 (10))

魚の履歴書 (上) (もんじゅ選書 (10))

 
魚の履歴書〈下〉 (もんじゅ選書)

魚の履歴書〈下〉 (もんじゅ選書)

 
魚の博物事典 (講談社学術文庫)

魚の博物事典 (講談社学術文庫)

 この三冊,第三章の内容より,読みやすく,信憑性が高い*3
 あの40頁ぐらいの内容なら,数多く出版されている『サカナのここだけの話』的
 の孫引きの孫引きの孫引きの・・・・としか言えない。
  第四章・第五章の見出しは興味をそそる。
 ここが第二章・第三章でも充分すぎる。
 ”水族館の歴史”をコンパクトに一章にまとめるべきであった。
 
三崎臨海実験所を去来した人たち―日本における動物学の誕生

三崎臨海実験所を去来した人たち―日本における動物学の誕生

  ↑水族館の前進とは言えないが,”水族館の存在目的”の歴史を
 語る上で必要な本だと思うが・・・。
  第六章で,専門家(一流か二流か三流かは知らないが)に対して
 コンサルタント業のプロが,アマチュア学問者にもかかわらず「ぼくはなんでも
 屋です」は少々おこがましい。
 ”著者=オーサー:語源関連でオーソリティ*4”であるならば,
 ”参考文献”のチェックぐらいキチンとして欲しいものである。
 啓蒙書は,片手間に書くのではなく,片手間に読むものです。
 だからこそ,”オーソリティたれ”と言いたい。
 上記の三冊は,○談社で入手可の本も入っている。
 ところが,社会思想社の『定訳 魚の博物学』は入手不可である。
 
魚の博物学―定訳 (1970年)

魚の博物学―定訳 (1970年)

 さらに,この本は,昭和18年7月8日に初刷2500部*5で大日本出版株式会社から発行されている*6
 これまで,”○談社”の編集社の不勉強ぶりに対しては再三再四,
 批判してきたが,ここでも”またか”である。
 ”参考文献”は,「さらに勉強したい人にこの本が入手可ですからオススメ
 ですよ」の意味である。たとえ,古書店でも入手しやすい本を紹介すべきでは
 ないだろうか?となると,文庫化されているもの等を紹介するのが親切というものだ。
 啓蒙書は親切でなくてはならない!*7
  ↓今,入手不可だが,この本*8は啓蒙著者は眼を通しておくべきだと思う。
 
魚の本の本 (1980年) (東海科学選書)

魚の本の本 (1980年) (東海科学選書)

 
 上記本の裏には次の様に記されている。

   〈文献目録〉は学問分野の発展に欠かせられないが,
  一般の人にこれを示してその分野への理解を求めても
  無理というものである。ここはいわゆる〈通俗書〉
  〈一般教養書〉にがんばってもらわなくてはならない。
   本書は昭和年間に出版された魚に関する本を収録した。
  一般向きの〈魚の文献目録〉である。さらに手を加えて
  主な著書の解題,内容紹介と手を広げ,魚の本を見,
  読み,考える際の参考になるよう工夫されている。

 この本には,次の”水族館本”が紹介されている
 

水族館の魚達 (1975年)

水族館の魚達 (1975年)

 
 この著者は,大阪の堺市*9にあった,
 堺水族館の館長の息子さん(元阪神水族館長)である。
 大版のカラー写真の本。
 『魚の本の本』の資料性は,非常に高いことは,講談社が一番良く知っていると
 言っても間違いない。
 とういうのも,次の本を出版した事があるからだ。
  この本は,広義の意味で科学分野の本を一般書を中心に網羅してある。
 こういう本の新版が出ないのが残念でならない。
  入手不可な『魚の博物学』よりは,自社の『魚の博物事典』でどうしてダメなのか?
 講談社学術文庫だから,手元に置いて読むにはとても便利な本である。
 末広恭雄*10氏の『魚の博物学』より後に出版された啓蒙書を上げておこう。
 
魚の四季 (講談社文庫)

魚の四季 (講談社文庫)

 
さかな風土記 (旺文社文庫)

さかな風土記 (旺文社文庫)

 
魚の歳時記 (旺文社文庫)

魚の歳時記 (旺文社文庫)

 
魚と伝説 (新潮文庫)

魚と伝説 (新潮文庫)

 
とっておきの魚の話

とっておきの魚の話

 
魚の国案内 (河出文庫)

魚の国案内 (河出文庫)

 
すし話 魚話 (カラー新書セレクション)

すし話 魚話 (カラー新書セレクション)

 
とっておきの魚の話 (河出文庫)

とっておきの魚の話 (河出文庫)

 
魚の生活

魚の生活

 
川の魚

川の魚

 
海の魚

海の魚

 
目から鱗の落ちる話

目から鱗の落ちる話

 
魚のうた (1975年)

魚のうた (1975年)

 これだけもの本がある!
 さらに,”岩波ジュニア新書”という”ジュニア”とは名ばかりの
 大人にも充分啓蒙できる本として次の様な本もある。
 
水族館は海への扉 (岩波ジュニア新書)

水族館は海への扉 (岩波ジュニア新書)

 「南極海の魚が凍らない」話の参考文献なら,
 
南極海の魚はなぜ凍らない (ライトサイエンス・ブックス)

南極海の魚はなぜ凍らない (ライトサイエンス・ブックス)

 「ファインディング・ニモ」からクマノミの話をしたいなら,
 
トウアカクマノミ (Visual guide)

トウアカクマノミ (Visual guide)

 魚の不思議な行動様式の本なら
  ↑は,大分生態水族館(マリンパレス)元館長が書いた本で,
 『水族館狂・・・』よりも余程,面白い。
 あの40頁の第三章よりも驚く内容ばかりである。
 
魚のはなし

魚のはなし

  ↑これは,少し専門的な本になるかもしれない。
 
魚のエピソード―魚類の多様性生物学

魚のエピソード―魚類の多様性生物学

 
魚の形を考える

魚の形を考える

  ↑この2冊等,新しい部類に入るだろう。さらには,
 『水族館狂・・・』の小見出しに,この本の内容は必要だ。
   ↑イカが飛ぶ話を紹介するなら,どうしてブルーバックスのこの本が
 参考文献に入ってないのか。
    ↑これらも,ブルーバックスである。
 『新水族館へ行きたくなる本』*11を紹介して,
 どうして次の本が紹介されないのか?
 
水族館のはなし

水族館のはなし

  ↑鳥羽水族館の企画責任者で,経済学部出身である。
 そういう意味なら『水族館狂・・・』の著者と似ているが,
 内容は,水族館の裏方も経験した人間にしか書けない内容*12になっている。
 
水族館を極める―アクリルガラスの向こう側

水族館を極める―アクリルガラスの向こう側

  ↑都心にあるサンシャイン国際水族館の館長の著作。
 都会のまん中での停電対策,水の確保等,『水族館狂・・・』にあるはずの
 当然のギモンを解決してくれている。これを参考文献もしくは,
 引用文献に上げて初めて,「第五章 水族館のできるまで (略)水族館の魚は
 餌を食べて生きているのではなく,電気を食べているのだ」が説得力を持つ。
 
クラゲの水族館 (のぎへんのほん)

クラゲの水族館 (のぎへんのほん)

  ↑この本を参考文献もしくは,典拠文献に上げて初めて,モントレー江ノ島
 クラゲ展示の話が書けるのではないか?
 
サメ・ウォッチング

サメ・ウォッチング

 
サメ―軟骨魚類の不思議な生態

サメ―軟骨魚類の不思議な生態

 
サメのおちんちんはふたつ―ふしぎなサメの世界

サメのおちんちんはふたつ―ふしぎなサメの世界

 
サメの自然史 (Natural History)

サメの自然史 (Natural History)

 
写真図鑑 サメの世界

写真図鑑 サメの世界

 ↑この本を参考文献・引用文献にして初めて,ジンベイザメの生殖の話やメガロドン
 話が語られるべきでないのか?「なんでも屋」なら尚更ではありませんか?
 猛省すべし,大○談社*13!!

*1:他方はブルーバックス

*2:”素人”ではなく”玄人”の意味。間違っても”玄人”=”プロ”ではないことをここに宣言しておく。この意味が理解し難い場合は,次の例を考えていただければ,容易に納得がいくと思う。「プロ野球の選手は”プロ”である」:「学生野球・社会人野球の選手はアマチュアと呼ばれるが,草野球より格段に上手い」:「休みに公園で遊ぶ草野球は素人。」

*3:あの文章は,俗に言う”マユにツバ付けて読んでくださいね”でしかない

*4:オーサーでも世界で5本指以内なら”大ソリティ”。それ以下なら”中ソリティ”,”小ソリティ”ぐらいの洒落た謙遜が欲しいものである

*5:定価5圓60銭:特別行為税29銭:売価5圓89銭

*6:初版後,30年で6版を重ね,グリーンウッド氏が原著を校訂している。もちろん,社会思想社の本はこの校訂版の翻訳本

*7:いくら図書館の閉館時間が遅くなったとはいえ,著作者は,本・資料を買うべきである

*8:併録されている「魚の本の目録(昭和55年8月現在となっているが)」は,30頁に及ぶ。

*9:当時,”東洋一”を看板にしていたらしい

*10:東京水産大の名誉教授で日本最初の冷凍シーラカンスの学術解剖の指揮を執った人の書いた自社本をどうして知らないの?

*11:はまぞうでヒットしないのに

*12:「どうしてそれがわかるんだ」って?東海大学海洋博物館の水族館の2泊3日のセミナーで餌作り等を体験している。アジの”三枚おろし”も”アサリの微塵切り”も”ラブカの解剖”も経験しているのです。

*13:ここに紹介した本に関して,私は全て所持している。読みもせず,どのような版型・価格・厚さなど本のイメージも持たずに「こんな本も知らないのか?」「これだけたくさんの文献を知っています」等という下品な啓蒙書作家の真似はしていないことを言明しておく。