No.50
●投稿者:マグリット(♂)
●投稿日:07月17日(水)02時21分13秒◆白無垢
仕事の手を留めるベルが鳴った。同僚は出払っており,部屋には
私だけだった。「○○○元気!いい加減に怒るのを辞めて,遊びにいらっしゃい。
今度,白無垢に綿星を用意したのよ,あなたが着たら,そりゃ
キレイだろうなぁと思って。そろそろ時間ができるでしょ。」高齢の師匠と呼んでいる女性からだ。
「・・いえ,最近,とくにこの4月から忙しくて,管理も厳しく
なったし。行きたいのは山々なんですが・・・。」「・・・若い,格好いい子が随分出入りするようになったけど,
あんたぐらい,上品でキレイなヒトはおらんわ。」
「いえ。ありがとうございます。」
”白無垢か。”ふと,10数年前の妹の結婚式を思い出した。
その前から,この秘密の愉しみは続けられていたが,
和装を面白くおもったのは,去年の今頃だった。完全な和装では,帯留めや,帯で締めつけられるのは,
心地よい感触であった。身が引き締まるような,それでいて,
淫靡な秘密を背負ったような・・・。一度だけ,”ひきづり”を着て,芸者髪の鬘をつけて,とある
繁華街*1を,師匠と歩いたことがある。
昔はもっと賑やかであったであろう商店街で通りすがる人々が,
老若男女を問わず,振り返る。お好み焼きを食べに店に入った。仕事帰りのサラリーマンや若
いOLがやはり,振り返る。ジロジロと見られている。
「こちら空きましたよ」に思わず「はい」と答えてしまった。
再び,そこにいた人々が振り返った。その顔には驚愕の表情が読
みとられた。”そうか,完璧に変身できていたんだな”内心ほくそ笑んだ。
半年前の記憶を反芻しながら,
「そうですねぇ,8月に入ったら,時間がとれそうなので」妹の結婚式の写真を探さないといけない。
まだ,そっくりに変身できるだろうか。
*1:十三