magurit’s blog

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トランスな世界

No.49

●投稿者:マグリット(♂)
●投稿日:07月11日(木)01時03分28秒

◆羽化

 昨夜,死にかけたのに(死にかけたから?),今夜,素晴らしい
生命の神秘を目にすることができた。

 書店に出かけようと玄関のガラガラ戸を開けると,何か地面をモ
ゾモゾ動いている。セミの蛹だった。セミの抜け殻は,何度も目に
していたが,中身の入った蛹を見るのは初めてだった。
本屋からの帰りに,踏みつけないように記憶に留めた。

 家に戻ると,ガラガラ戸の横の壁のちょうど人間の目の高さ辺り
に蛹は,じっととまっていた。

 1時間ぐらい経った頃,そっと玄関を覗くと,蛹の殻から,白い
(正確にはオレンジ色)成体が,海老反るようにしている最中だ
った,両親を呼び,父親は趣味のカメラのレンズ越しに,時間を
留めていく。

 まだ伸びきっていない,羽根は,茹でたてのグリーンピースの様
な美しい緑色を帯びている。

 この美しい生き物が,昼間,1週間という限られた時間,我々を
喧噪の世界に導いていくのだ。

 さらに1時間後,成体は,すっかり殻から抜け出ていた。頭を上
にして,まだ腹は柔らかい感じである。

 羽根はすっかり伸びてはいるが,美しい緑色に幾ばくの変化も見
られない。

 テレビや本で見たことはあったが,目の前に起こる,生命の神秘
は,傲慢な人間に,包み隠さずその敬虔な姿を,隠すこともなく
見せてくれる。

 まるで,「生きること」の素晴らしさと儚さは,常に同居するこ
とを告げるかのように。