magurit’s blog

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『逃亡くそたわけ』絲山秋子

  

逃亡くそたわけ

逃亡くそたわけ

  最近,”絲山世界”が続いているが,このロードムービー的小説は
 やはり面白かった。某所のレビュー等を見ると,評価がいろいろだが,
 この小説の背景にある”躁鬱の薬の副作用による苦痛?*1”を想像した
 り思い出す人には,”共感度”が増すに違いない。
  福岡の病院から,脱走した二人。女子大生と会社員。
 女子大生が,ややヘタレの会社員と彼の車で,本州でなく,
 九州を南へ南へと走って行く。
 ニュースや新聞に捜索願が載るような記述は無いが,
 そこは,それぞれの読者にお任せなのだろう,いや,主人公の女子大生・
 花ちゃんの頭の中を駆けめぐる”追われている”という声と,
 ”捕まったら,またあの薬の苦痛に埋め込まれる”という想いが
 道を先へ先へと進めて行く*2
  会社員は,名古屋から抜け出て,東京を崇拝する・なごやん
 名古屋弁を使わないよう意識している。何度も「やっぱり病院へ帰ろう」
 という辺りは,「男の方が女々しい」と広言していた,天才・上岡龍太郎*3を思い出させてくれた。
  途中,律儀にも川で洗濯していて流されたり,車のクーラーが
 壊れたりとハプニングもあるが,日常生活なら”ちっぽけだが鬱陶しい”
 ハプニングなのが面白い。
 男と女がいながら,情交に発展しないのが”絲山節”なのかな。
 くわえて,男が弱々しい。そういう,絲山さんの作風が好きな方には,
 特にオススメ*4
 次は,何の世界に浸ろうか・・・。
 このジメジメの中では,シムノンメグレ警視が読みたくなる・・。

*1:薬の名前を見ていて,”あっ私も飲んだ・・確かに,あれは辛い”と・・・。

*2:作家の中島らもさんも,”鬱から躁への躁転”があったことを『心が雨漏りする日には』の中で語っていたなぁ

*3:数年前に終わったが,読売テレビ製作の「パペポテレビ」で笑福亭釣瓶と60分のアドリブ会話の番組。

*4:ここまでの読書歴)『ニート』→『イッツ・オンリー・トーク』→『袋小路の男』→『沖で待つ』→『逃亡くそたわけ』→?