magurit’s blog

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『この子 なんの子? 魚の子』

 『チリモン百科』を,
 いい啓蒙書だと
 誉めたのだが*1
 またまた素晴らしい啓蒙書を見つけた。

 福音館の月刊「たくさんのふしぎ」は,
 森羅万象を色々な切り口で紹介する
 子供向けの絵本なのだが,

”子供向け”と侮ってはいけません

これは,立派な科学啓蒙書です!

 水中カメラマン歴3ε年の吉野雄輔さんが,
 ゴミの様な小さな魚が,フグの子供らしいことに気づいたのだが,
 「何フグ?」と思ったことから話は始まる。

 「図鑑でも調べても,だれに聞いてもわかりません。
  そこで,もう少し成長したものをさがすことにしました」

 4,5cm,8cm・・と模様や斑点の変化を追いかけて,正体を突き止めます。
 これを期に,子魚の成長を追いかけ始めるのです。

 本のタイトルから想像されるかもしれませんが,
 仔魚の形・模様と成魚の形・模様は,著しく異なる例が多いようです。
 

この本が啓蒙書として優れているのは,

(1)仔魚から成魚の変化に徹している。

(2)仔魚と成魚の模様の違いと共に,必ずのように語られる蘊蓄がない。

(3)仔魚の実際のサイズが図示されていること。

 
 特に,(1)(2)は,魚についての蘊蓄を加える作家が多く,テーマがぼけるのです。
 そういう雑学ネタ*2は,無知なタレント*3に垂れ流され,
 一度でも,センセーショナルに取り上げられると*4,間違いがあっても,どんな権威でも訂正は不可能になるのです。

そう誤謬の温床ですね。

 
 (2)の具体例を説明します。
  ”魚の生態”について書かれた啓蒙書で,
  「仔魚と成魚の模様の違い」で必ず出てくるのが
  タテジマキンチャクダイという魚です。
 
  (成魚)
 
  (仔魚)
 成魚のカラフルな色は,海水魚ファンならずとも目を惹きつけられるでしょう。
 その仔魚の模様に,成魚の雰囲気は,微塵もありません。
 そして,タテジマキンチャクダイとセットで,登場するのは,
 サザナミヤッコの仔魚(↓)です。
 
 雰囲気が似ているのは,おわかりいだけるかと思います。
 ちなみに,サザナミヤッコの成魚は,実に,渋い色合いの魚です。
 *5
 
 吉野さんも,タテジマキンチャクダイを選んでおられますが,
 サザナミヤッコの仔魚については,一切触れていません。
 似た模様の仔魚*6を蘊蓄として入れなかったのでテーマが際だっているのです。

 さらに,(1)の例として,
 タテジマキンチャクダイを取り上げると,
 魚の”タテジマ(縦縞)”と”ヨコジマ(横縞)”の違いを入れた本も多いですが
 それも入れてないのです。

 このように,”ついでの蘊蓄”を入れないというスタイルが,
 実に完成度の高い科学啓蒙書に仕上げています。

 このことは,教育問題にもあてはまります。
 ”ついでの蘊蓄”は,日本の教育が素人教育から脱皮出来ない一因と言っても過言ではありません。

 科学の専門家を自称する一部の人は,

”知りすぎている故に,あれもこれも教えたい”という誘惑に駆られます。

 ”教育的な”という文言に秘められた魔力が,
 ”ついでに,あれも書いて(教えて)おこう。上手いなぁ”という満足感に煽られるのです。

沢山の事を一度に教えても,定着はしません。

一つの原理原則を徹底的に,”バカの一つ覚え”の様に使うことが

科学*7入門教育の極意です。

 もちろん,これまで書いた事は,私自身にも該当することです*8

 ↑これは,どんな魚の仔魚だと思いますか*9
 

*1:http://d.hatena.ne.jp/magurit/20090601#1243868553

*2:http://d.hatena.ne.jp/magurit/20061030

*3:いや番組プロデューサー?

*4:ミツクリザメは学名なのん,ゴブリンシャーク等というニックネームが学名の様に流布するのです

*5:より引用

*6:タテジマキンチャクダイやサザナミヤッコの仲間の仔魚には,タテジマキンチャクダイの仔魚の模様に似た種類が他にもいることがわかっています。

*7:自然科学に限定せず,人文科学・社会科学も含めるのです

*8:それ自身をも含めて考えることで,矛盾を発展的解決策に導くことができるように思います

*9:答えは『たくさんのふしぎ』で