アジアシリーズも劇的に終わりました。
プロ野球に関しては夢のような1年でした。
アジアシリーズは放送が無かったので,ちょっと創作してみました。
予想に反して,第2戦で接戦を演じた台湾との決勝になった。
渡辺にとっては,指導者としての礎となったチーム。
日本シリーズからの疲れか,エース涌井の球威はなかった。
が,その分,慎重にコースをついていた。
涌井らしい淡々とした投球だったが,要所ではフォークが威力を発揮していた。
そんなエースの粘投に打線も答えたいところだが,
台湾の先発に押さえ込まれていた。
7回,8回,9回とライオンズ中継ぎ陣は,必死で持ちこたえていた。
日本シリーズで,Gの中継ぎが褒めそやされたが,
ライオンズの中継ぎもペナントレース以上の好投をしていた。
9回裏,一人,二人と打ち取られていった。
誰もが,延長を覚悟した2死無走者,石井義が四球を選んだ。
一瞬,緊迫した空気に水が入った。
次のバッターは佐藤,ライト打ちの名手。
石井は,三塁コーチの清家のサインを確認しながら,
ふと,脳裏に日本シリーズ前に見た映像が浮かんだ。
「辻さんと伊原コーチは,クロマティの2塁送球をシリーズ前に調べていたんだよな。
一回あるかなしかのチャンスの為に,準備をしていたんだ。
あの走塁は凄かったなぁ。佐藤がヒットを打ったら,オレも・・・。」
試合前,清家コーチと第2戦の台湾戦について話ていた。
「あのセンターの動きはちょっと緩慢だ。2塁ならシングルヒットで楽勝だな。
運がよければ一塁からでも・・・。」
「伝説の走塁ですか,片岡か栗山ならね。」と冗談ともつかない話をしていた。
その数時間後に,伝説の再現が訪れることを,誰が想像できただろう・・・。
バッターの佐藤と目が合った。佐藤が頷いた。
ベンチの指示で,センターがライト方向へ守備を変えた。
右打ちの得意な佐藤に対するシフトだ。
「センター前なら,深くなるな,あの送球で・・・行ける」
もう一度,清家コーチと目を合わせた。
佐藤の打球は,定位置のセンター前に転がっていった。
「コーチ,手を回せ!!」
定位置よりライトよりに守っていたセンターは,打球を回り込んで捕球した。
「まだ,1・3塁だから」と安心したのか,
山なりの球をセカンド目がけて投げた。
清家の目がそれを見逃さなかった。
「回れ,本塁突入や!!」
手がぐるぐると回された。
”回る手”が目に入ったのか否か,
石井は,思いきりサードベースを蹴った。
キャッチャーが,アンパイアが,次打者が,音もなく,スローモーションで流れていく。
一気に本塁を駆け抜けたとたん,現実に戻った。
「セーフ!!」
内野からのボールが届いた時には,ライオンズの選手が石井に飛びついていた。