まぶしい光だけではなかった。熱気とコンビを組んでいた。階段を越えて,地上へ出ると,
ますます強くなる。フラッと右へと歩く。誰もがゾロゾロ,と歩いていく。
「気ぃつけや,あんたのことやで・・・」と,ひったくり多発を呼びかける看板の影絵が
目の隅を通り過ぎた。7歩歩いて,また右に折れた。二人,三人連れて折れた。
生ゴミの臭いが腰より低い位置から,もあっとはいあがってきて,プラスチックがバリバリと
音をたててながら押しつぶされている。スーパーの横で毎朝聞くエンジンとの和音だ。
前を歩く男は,肩幅も広く50代も後半か。右手にうす茶色の鞄,左手は上着をつかみ,
少しずりあがったズボンの下には,明るい茶色の靴が跳ねる。ふっと男の顔の前に白いもの
が漂う。大股で歩きながら,銜えタバコをする人間を久しぶりに見たような錯覚に囚われた。
彼の行く先を遮るかのように,駐車場から大型車の頭が飛び出した。ゆっくりと,バックし
て元の区画へ入れ直している。
大股の彼はどうするのだろう?立ち止まるのか,歩を緩めるのか,大回りするのか・・・。
歩みの速度は緩まない。何分の一秒かのタイミングで,車は車庫に収まり,足は行く付くべき
場所へとたどり着いた。
オートロック扉を抜けた。突然「おはようございます」と鍵箱のある通路から声を掛けられ,
ビクッと心臓が跳ねた。人の気配がしなかったのだ。乗り替えホームでハチやアリが交差しな
がら群れるように,沢山の人とすれ違った時から,今日の私の感覚は何かおかしい。
*** *** *** ***
今日は一日,ずっと変だった。沢山の人が歩くさまに,どうして,何故,生きているのだろう。
何のためにいきているのだろう。と思い続けていた。ただ,悲観的になったのではない。
同じ事を繰り返すだけの毎日が嫌なのではない。さりとて,楽しくて仕方がないわけでもない。
ただ,ただ,脈絡と続く時間の中の自分は”一体全体,何なのだろう”という思いが
懇々と枯れることのない泉のように湧き上がるのだった。