- 作者: よしながふみ
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『フラワー・オブ・ライフ』”感動,してしまった”
物語の登場人物に,どのようななづけが行われているか。そのことが,いつも気にかかる。
「母」「兄」と,関係性の呼び名が多いものもある。「からす」「エル」と,コードネーム
のような名が出てくるものもある。そこに,何かが現れる。
本書には,名づけのされている人物が31人。フルネームの者は,うち14人。全4巻のマ
ンガとしては,名づけのされている率は,かなり高いように思う。高校の一年間を描いた群像
的な物語だから,登場人物が多いのは当然なのだけれど,ほぼ全員にしっくりとくる名がふら
れていることに,まず感じいる。
群像の中心となる春太郎は,白血病のために一年留年している。友情がある。試験勉強があ
る。文化祭がある。先生と生徒の恋愛がある。各々の家の事情がある。将来の夢がある。
こうして文字に書くと,なんて平板なんだろう。けれどむろん物語は決して平板ではない。
かといって,人々を驚かせようというような不自然な波瀾もない。あるのは,ていねいに名づ
けられた登場人物たちの,気持ちの動き,少しずつ変化する関係,ゆるやかな時間の経過,の,
こまやかな描写と,気持ちのいい笑いである。
四巻目の後半で,わたしはふいうちをくらった。ドラマ,があった。虚をつかれたのは,す
っかり物語の中に入りこんでしまっていたからだ。予期できたかもしれないドラマだった。で
も,だめだった。肌理こまかく泡立てられたクリームをうっとりと嘗めるように読んできた,
その最後に大きな物語が突然硬く立ち現れて,感動,という言葉を安易に使うのはいやなのだ
けれど,やはりどうにも感動,してしまった。
題名が,いい。読み終わったとき,人物のみならず,物語ぜんたいへの,その名づけの秀逸
さが,しみじみと実感される。
◇よしなが・ふみ=1971年生まれ。
(2007.07.15日曜・読売朝引用)
フラワー・オブ・ライフ (2) (Wings comics)
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